手ぬぐいで汗を拭う
船が切って行く風が気持ちいいと思うと背中に視線を感じる
振り向くと仲間の少年が立っていた
「マッシュとケンカか?」
急に言われた質問
しかし、何のことだか解らず申し訳ないと思いつつも質問で返す
「ガウ殿…質問の意味が解りかねるのだが?」
「さっき、頭、下げてた。」
「先ほど…?」
「マッシュと、カイエン、闘ってた。ケンカか?ケンカ、悪い事。」
「マッシュ殿と?」
漸く質問の意味を理解し、「あぁ!」と手を打つ
先ほど、仲間のモンクに「修行に付き合ってくれないか」と言われ、手合わせしていた時の事だろう
先ずはケンカしていたという誤解を解こうと説明を始める
「あれはケンカでは無く、手合わせで御座る」
「てあわせ…?」
「お互いにどれだけ強いのか闘うことで御座る」
そう説明すると解った様な解ってない様な顔をしていたが、ケンカでは無かったと知り、一安心している様だが
「じゃあ、どうして、頭、下げてた?」と不思議そうな顔で見上げてきたので、どう説明したらいいものかと考えながら話し出す
「…あれは『礼』で御座るよ。」
「ガウ…?れい??何だ?それ。」
「武術の試合や手合わせをする時に相手や場所、そして神様に『お願いします』と言う意味で頭を下げ、そして終わった後は、相手や場所、そして神様に今度は『ありがとう』という意味で頭を下げるんで御座る。」
「…ウ?」
完璧に解らないらしく考え込んでしまった
こんな時言葉にして何かを説明するとは本当に難しいものだと思うのと同時に、話下手な自分がもどかしい
腕を組んで考え込んでしまっている少年にもっと解り易くと心がけながら
「ガウ殿。それぞれ生き物には命があることはご存知か?と問うと難しい顔が明るくなりニコニコと笑顔で答えが返ってくる
「ガウ…それ、知ってる!命。大切!!」
「そう。命は大切なもの…命が無ければ生きていけない。だから自分と相手、お互い命があって出会えた事に、出会わせてくれた場所に、出会わせてくれた神にありがとうと言う事を伝えるためにするもので御座る。」
「そうか!」
どうやら解ってくれたらしい
ほっと息を吐いて少年を見ると、何故だか又難しい顔をして考え込んでしまっている
矢張り解りづらかったかと、苦笑しつつもっとわかり易い言葉を捜していると
又、問われた
「カイエン…礼、試合と手合わせの時にしか、しないものか?」
笑顔と思考が止まる
質問の意味が…
「カイエン、帝国兵、闘いの時、礼、しない」
「命、皆、持ってる。命、大事。どうして、しない?」
「出会えた事、良いこと。違う?」
………
何を話しかけても何も反応しなくなった大好きなヒトを不思議そうに見上げながら少年は考える
『礼』が相手の『命』を大切に思う心の現われならば、目の前に居るヒトは何故、『死合』の時にはしないのかと
しかし、その答えはこの無垢で純粋な少年が知ることは無い
それは酷く悲しい日に彼の心に巣食った醜い魔物
………………………………
カイエンは殿下を守る時に人を斬る時でも、『礼』はしていた(目礼だけでも)けれど、ドマが滅ぼされた日から帝国兵にだけはしなくなったんじゃないかという勝手な妄想
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