月に照らされた森の中ソレは其処に居た
森に生い茂る木々の影から生えてきた錯覚すら覚える程に
まるで其処に居るのが当たり前の様に
第六感が鋭い彼でも気が付かなかった程に
彼がソレを人影だと理解したのは月の光がソレの輪郭を浮き彫りにしたからだった
ソレはマナの女神像の前に立っているようだった―微塵も動かずに
「有り得ない」
そう、彼は思った
彼がソレを人影だと理解し、瞬時に蘇った記憶達が誰であるかを彼の脳が出した『答え』は馬鹿馬鹿し過ぎるほど有り得ない『答え』だったからだ
しかし、彼の脳は既にその『答え』を出しているし、それに彼は知らない―マナの女神像にこんなにも、只ひたすら向かい合う銀の名前は
ソレ―その人影の纏った空気が彼に名前を呼ばれる事を今でも拒否しているようで、彼はその銀の名前を呼ぶことも、そして、声を出すことすら出来なかった
否、彼は呼びたくなかった
ソレの存在は彼にとって面白くなかったし、ソレ自体此処に居て良いモノではない
名前を呼んでソレが此処に居る事を彼自身が強調するような愚かな真似はしたくなかった
それに…それに彼はその銀の名前を呼んだ事が一度も無かった
ザワリ。と
森の木々が風に揺れる
それに同調するようにその銀が揺れ、月の光を受けキラキラと輝き
―ソレの纏っていた空気が中和された気がした
「お前は…」
途端に風が止み、ソレの肩が少し動いた
そして―そして彼は呼んでしまった
一度も呼んだことの無い銀の名前を
「ベ…ルガー…?」
搾り出すように紡いだ名前は静まり返った森に小さく低く響いた
クルリとソレが振り向く
(あぁ…やっと呼んでくれたね)
そう言って弧を描く口を―その顔を見たくなくて彼は顔を背けた
しかし…
「それがオレの名前ですか?」
彼の予想に反したまだあどけなさの残る声が彼に掛けられた
彼が振り向くとソレの影は跡形も無くなり
ソレの居た場所に獣人の子供が立っていた
驚きを隠せない表情でその子供を見つめていると
「あなたはオレ達の王なのですね。匂いでわかります。そんな方に名前をつけて頂けるなんて…光栄です」
その子供はそう言って無邪気な笑顔を見せた
「では」
と言って立ち去ろうとする子供の背中に我を取り戻すと彼はその背に声を掛けた
「ルガー」
「へ?」
先ほどと少し違った名前を呼ばれた子供が足を止め振り返り、不思議そうに彼を見上げる
「ルガー…そう。ルガー。それがお前の名前だ」
ぶっきらぼうにそう言うと今度は彼が背を向けて歩き出す
子供は驚きと戸惑いの表情だったが又無邪気な笑顔になり、彼の背に誇らしげに叫んだ
「今日からオレはルガーと名乗り、貴方とこの国の為に生きていく事を誓います!」
『ルガー』と別れた後、彼はソレが居た筈のマナの女神像の前に立ち、マナの女神像を睨みつける
「あの子供にヤツを重ねたのは…貴様のせいか?」
女神像は答える筈は無く、只、優しい微笑みを称えているだけだ
「それとも…己が己自身に見せた幻…か」
そう苦々しげに誰にとも無く呟くと、彼は踵を返して戻っていった―彼の愛しいものが待つ場所へ
その名を決して呼んではいけない
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ついでに裏設定的なものは『ビーキン考察部屋』に移動しました
(凄く長くて、読みにくいです…)
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